介護福祉士 今、介護現場では。

エピソード 15

 

昔高齢者住宅に勤務していた時、まだ70代の気難しい男性Aさんが入居していました。認知症は殆どなく、脳梗塞での車椅子生活でした。

Aさんは60代で独立して事業を始めた矢先に脳梗塞で倒れ右半身不自由になりました。

その上長年連れ添っていた奥様も他界しました。

Aさんには仲が良い姉が一人居たため、お姉さんを頼って同居生活を始めました。

ところが、元々気難しい性格の上不自由な身体になってしまった事や、事業の夢が破れた事、奥様が他界した事などで、お姉さんの家族にあたるようになり、やがて同居が困難になり、高齢者住宅に入居となりました。

 

入居後も、私達職員に対して当たり散らし、入浴介助も居室掃除も、皆嫌がるようになりました。 親切に接しても明るく接しても、Aさんには不要でした。

暴言を吐き、命令し、怒鳴り散らす・・辞めた職員も居ました。

 

そんなAさんでしたが、たった1度だけ入浴中に泣いた事があったそうです。

野球好きな男性職員と入浴した時、野球の話で盛り上がった時に声を上げて泣いたそうです。 それを聞いた他の職員は、これをきっかけに少しでもAさんが心を開いて私達に接してくれればと願っていたのですが、それは全く無理な事でした。

 

やがて、経営者とお姉さんとの話合いもあり、退去となりました。

 

今でも、どうやったら良かったのか分かりません。私たちは何人もの人の介助を同時にしているので、個人的に特にその人に寄り添う事は難しいです。

 

退去した後にお姉さんが来られて「本人が戻りたがっている」と言われたそうですが、

「もう満室なので」とお断りしたと、経営者から聞かされました。

 

私達は、入居者と仲良く生活したいのです。

それが出来ないのなら、このきつい介護の仕事は続かないです。

 

 

介護福祉士 今、介護現場では。

エピソード 14

  

休日だった今日、同僚からのラインが入りました。 Tさんが夜勤者の体を触りキスをしようとしたらしい。 女性スタッフにとってTさんは、厄介な入居者のひとり。

男性入居者が嫌われる理由には色々ありますが、頑固・短気・不潔そして女性を触りたがる。認知症になると、頑固な人はますます頑固に、女好きな人はますます女好きになります。脳が委縮して、自分の抑制が効かなくなるからでしょうか?

 

このTさんは先日も、別の夜勤者の体にくっついてきて、手首を掴んだそうです。

夜勤は一人勤務なので、本当に怖いと言っていました。 

日中私がTさんの入浴介助して、着替えを見守っていたら、ニヤニヤしながら「ムスコが大きくなっちゃった」と、思い切り気持ち悪い顔をしましたが、「だから?」と、無視したらそれ以上喋らなくなりました。

 

他の施設で勤務していた時も、必ずと言っていいぐらい、女好きな高齢者がいます。 女性スタッフの胸を触ったり、お尻や手を触って来たり、股間をくっつけて来ます。

私達は、上手にかわすように・・と言われますが、認知症だと容認すると、ますますやります。 悪く言えば、女性も喜んでいると勘違いしています。

私たち介護士は、もっとプライドを持って、毅然とした態度と暖かな気持ちで高齢者に接していくべきです。  

 

私が長年の実務経験で分かったこと。

たとえ認知症でも、相手を見て行動してきます。

 

     

      来年から異性介助が違法になると聞きましたが・・・。

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エピソード13

現在勤務している老人ホームで、11月に立て続けて3人逝去されました。その内のお一人はかねてより看取りに入っていた方、もうお二人は寝たきりでしたが、突然急変して亡くなりました。 この仕事を始めた頃は、人間が亡くなる事に慣れていなかったので

とてもショックでしたが、10年以上の勤務になると、たった今亡くなる瞬間を目前にしても冷静に対応出来るようになりました。

自分の近親者ではないからかも知れませんが、仕事と割り切っています。

 

ただ、いつも思う事があります。人間とはこんなにあっけないものなのかと。

自分に置き換えると、自分が人生を全うする時はどんな場所で誰に看取られ何を思い息を引き取るのだろう・・と。

私が介護施設で見て来た現場は、朝亡くなっていた。日中見回りで息をしていなかった。夜中に巡視中亡くなっていた。施設では、私が経験した8割以上はお一人で亡くなっています。 たとえ認知症でも、その最期の気持ちを想像すると辛いです。

 

それとは真逆に、やっと亡くなった・・と機嫌の良い家族も少なくありません。

 

これが現実なんです。

介護福祉士 今、介護現場では。

エピソード 12

 

高齢者施設に勤務していた時でした。穏やかで物静かなTさんが、寝たきりの状態で入居していました。 その方の所に、面会に来る友達も親類も子供も誰も居ませんでした。

施設の上司から、何度かTさんの身の回りの衣類の買い物を頼まれ、中でも紫色の小花模様のパジャマがお気に入りでした。 甘い物も好きで、1日1回ニコニコしながら口にしていました。

やがて、幻覚を見たり夜中に奇声をあげたりが続き、そして息を引き取りました。

 

それから、3人の息子さんが居る事を知りました。 そして、さらに驚いたのは、3人の息子の父親が全部違う事でした。      

もしかしたら、父親も誰なのかハッキリしていなかったのかもしれません。

Tさんは、女一人、そうやって生きて来たのでした。

 

そんな奔放な母親を持った3人の息子が、どの様に育ち、大人になり、母親を切り捨て疎遠になっていったのか。 やるせない気持ちになりました。

 

やっと連絡がとれた息子の一人は、引取りを拒否したそうです。

 

介護福祉士 今、介護現場では。

今回は、スタッフの事を話したいと思います。

施設ごとに色んなスタッフが事故、事件を起こしました。

 

1、盗撮

あるグループホームでの事です。 男女兼用のロッカールームにカメラが仕掛けられていたのです。カメラは、施設の清掃業務の方に見つかりました。 発見後すぐに再生されたら、仕掛けた男性スタッフが映り込んでいました。 何とも間抜けな犯人・・・と笑いたいのですが、同僚の女性スタッフはカンカン。 信頼していた仲間だっただけに

皆の怒りは爆発。警察に被害届を出す騒ぎになりました。即刻退職して鎮圧しましたが後味の悪い事件でした。

 

2、虐待

テレビの三面記事でよくニュースになる、高齢者への虐待。ごめんなさい。私が勤務していた過去の全て施設で、大小の虐待はありました。

そして全ての施設ではもみ消しています。 ただ一つ、社員の内部告発があり行政が抜き打ちで監査に入った施設はつぶれました。 

 

虐待とは暴力を振るうだけではありません。 動けないようにしたり(ミトン・ツナギ装着)、ベットから自由に出られないようにしたり(ベット柵で四方をふさぐ)、ナースコールを無視したり、無理やり食べさせたり、大小様々な事が現実に起こっています。 そして内部告発は仕事を辞める時しかできません。 皆、在職中に犯人捜しされるのが怖いのです。 行政にお願いしたい。 全ての施設の抜き打ち監査と職員の聞き取り調査をしていただきたい。

高齢者の声なき声を探して下さい。

 

3、スタッフの健康管理

先日、高齢者施設勤務の知人が、施設から体調不良で緊急搬送されました。

以前老人ホームに勤務していた時も、夜勤者のスタッフがトイレ内で倒れていて緊急搬送され、クモ膜下で入院されました。発見が遅かったら危なかったそうです。

介護の仕事は重労働です。 そして何処でも人材不足です。 

結構無理して、皆働いています。

 

4、とんでもない夜勤者

高齢者住宅に勤務していた時、中でも比較的しっかりしているSさんがある日教えてくれました。 「あのね、あの髪の赤いお姉さんが、夜中トイレ借りに来て困る」

よくよく調べると、夜勤の勤務中一人勤務を良いことに、毎回酒を飲んで酔っ払い、夜勤パトロール中、入居者の部屋のトイレを借りていたらしい。

もちろん社長に即刻懲戒免職されました。 こんな夜勤者は初めてでした。

 

自分の夜勤勤務中、ご主人を呼んだり恋人を呼んだりとする人も居るとは聞きますが、

おかしいと思う私がおかしいですか?

 

介護福祉士 今、介護現場では。

エピソード 10

 

あるグループホームに勤務していた時、品のあるにこやかなRさんが入居して来ました。 季節は春でしたが、夏物も冬物もしっかり用意して、籐のタンスや押し入れ収納タンスに寝具一式と何もかもの持ち込みでした。

玄関から上がろうとしない長男のお嫁さん、せっせと働く長男、まるで対照的でした。

息子夫婦と同居しても、両親のどちらかが亡くなると、片親を施設に入れる事は決して珍しくありません。 多分、お嫁さんが望んだのでしょう。

 

帰りたいと不穏になる入居者は多いのですが、Rさんは1度も口にしませんでした。

 

最初は元気だったRさんも、認知症が進み、杖歩行から車椅子になり、やがては寝たきりになりました。

それからがスタッフの介護は最悪でした。

おむつの交換の抵抗、食事介助の抵抗、(入浴が無理なので)清拭の抵抗。

噛みつく、唾を飛ばす、食べた物を吐く、蹴飛ばす、叩く。

 

私も噛まれ、数日間歯形が残っていました。

 

そんなRさんも、あっけなく息を引取りました。

 

あんなに激しい方も珍しく、同居していた長男のお嫁さんが会いに来なかった理由も

何となく分かった気がします。

 

亡くなったから許すとかじゃなく、亡くなっても絶対許さない関係。

 

多いんですよ、実に・・・。

介護福祉士 今、介護現場では。

エピソード 9

 

入居されている人間関係は、たとえ認知症同志とはいえ色々です。皆、自分が認知症だと自覚がまったくなく、単なる軽い物忘れが時々ある・・・と思っています。

 

ですから「ご飯を食べていない」「物が無くなった」との、真剣な苦情は毎日です。

「ご飯を食べていない」・・から、「食べさせてもらっていない。」

自分の私物を置き忘れても、「泥棒が入って持って行った。」と、110番通報された事もありました。 皆、嘘をついているわけではないのです。

認知症とは、そういう事なのです。

 

昔、資格をとる為に学校に通っている時、先生に「一緒に夢をみる事。決して否定しては駄目です。」と、教えて頂いた言葉は、今でも忘れていません。

ただ、沢山の認知症の方々との生活は、毎日毎日本当に本当に大変です。

 

皆自分は認知症だと自覚がないので、「○○さんは変だ」とか、「認知症にはなりたくないもんだ」との会話が聞こえて来ると、スタッフ同士で苦笑してます。

 

そんな中、施設でも比較的要介護が低い要介護1のYさんが、皆の世話を積極的にやってくれます。 食事の配膳や下膳、洗濯干しなど、毎日手伝ってくれます。

90歳になるYさんですが、何でも手伝ってくれ、ご自分でも「私は皆より、しっかりしていて、何でも出来る」と、毎日自慢しています。

 

しかし、Yさんと変わらない要介護1のKさんが入居されました。昨年まで一人暮らししていた89歳の方です。 

 

・・・・そうなんです。自立同志で、仕事の取り合いにならないように、スタッフは頭を抱えているんです。 今日も、Yさん機嫌悪かったなぁ~。